機長のミス

私は就職活動の一環で、某赤色と青色の航空会社のパイロットの試験を受けた。選考が進み、実際に飛行機のシミュレーターを使う試験をした。その試験は2日間行われ、1日目に比べて2日目にどれだけプログレス(成長)しているのかを調べる試験だった。6人で1チームとなり、1日目が終わるとみんなでzoomを用いて情報共有を行う。この流れは実際にパイロットの訓練生として訓練をする4年間続けられる。聞いたところによると、誰か1人に教えられたことは、次の日には全員が知っているという前提で訓練が進められるという。何はともあれ、パイロットの訓練を短縮したものを経験できたことはとても貴重であった。その2日目、私は前日の夜にみなで共有したこと、またイメージトレーニングしたことを思い出しながらシミュレーターの席に座った。試験官は合計2名おり、どちらも機長で、1人は隣で私に指示を出し、もう1人は後ろや周辺を動き、私の目の動かし方や機器の動き方を細かくチェックしていた。私は機長席である左側に座り、右側にいる機長からの「You have control」の合図を機に、試験が始まる。初めは飛行訓練で実際に旋回や下降、上昇を行った。その後に離陸訓練、そして最後に着陸訓練を行った。

 

その着陸訓練で、私の心の中にいつまでも残り続けるある出来事が起きた。

 

それは、滑走路が前方に見えており、風が吹いているために自分で飛行機を操縦して滑走路に安全な角度と高度で進入する、という試験だった。私は初心者であるために、当然、設定は最も簡単なレベルになるはずだった。しかしその設定にするためのレバーを引くことをその試験官の方は忘れ、パイロット適正検査としては不適正なレベルの試験となってしまったらしい。私自身はその違いを微塵も気づかなかったが、やはり機長の感覚からすると雲泥の差なのだろう。その機長はレバーを引き下ろすことを忘れた自分自身にとても驚いていた。なぜ自分がその行為を忘れたのか、少しの間考え続け、記憶を反芻していた。この機長の小さな行為がずっと私の心の中に感動や関心と言うのでは浅すぎる感覚としてずっと居座っている。それまでもパイロットについて少し勉強していたために、機長がどのようなことを意識しているのか、どのような立ち位置であるのかを実感として認識していた。その上でその機長がした行為がどの様な意味を持つのかを考えてみると、そこには多くの人命がかかっているという背景があり、その機長の意識の裏にはその小さなミスが大きな事故に繋がるといった責任感があったのだろう。その自責を私は隣にいて感じた。大袈裟かもしれないが、機長という人間の使命を垣間見た気がして、私の記憶に深く刻まれている。